■6

サーフ・ボードはサムライの刀だ、と誰かが言った。
ボードにはサーファーの魂がやどる。そんな意味なのだろう。
もしそれが本当ならば、私の魂はどこに行ってしまったのだろうか?
私のボードは各国の飛行場で雑な扱いをうけて傷み、熱帯の太陽に焼かれて黄色く変色していた。
そして、サーフィンを知らないジュヌビエブにもてあそばれて、さきほどから何度となく浜の砂に軟着陸していた。表面に、そのたびごとにひびが入った。
波はあいかわらず小さかった。
だから私は、宿の女主人の息子を連れだして、波乗りを教えていた。
どこからともなくジュヌビエブがやって来ると、少年からボードをとりあげ自分が夢中になった。
少年と私は砂浜に腰をおろした。
「ムッシュー、ムッシューはジュヌビエブとつきあってるの?」
「ノン」
「じゃ、ジュヌビエブはドイツ人のムッシューとつきあってるの?」
「ウィ」
「ムッシューはガールフレンドを連れてこないの?」
「ノン」
「ガールフレンドはいないの?」
私は答えなかった。
そして、ぎゃくに、ききかえした。
「君はガールフレンドがいるのかい?」
「ウィ、もちろんだよ」
十代前半の少年は、憮然として言った。
「もちろんいるに決まっているよ」
「隣の宿(オーベルジュ)の女の子?」
「ちがうよ!」
「じゃ、どの子だい?」
「聖心 に通ってるんだ」
少年は誇らしげに言った。
「だから、スキリング岬には、いま、いないんだ。ジゲンショーの寮だよ」
波をつかまえたジュヌビエブが、濃い緑の海原を腹ばいになって滑った。









夕食はたいてい宿(オーベルジュ)の食堂でとる。
私はさまざまな国から来る旅人と話をするのが好きだし、部族の長の娘だという肥え太った女主人と冗談を言いあうのも楽しい。芸人の一団が来て、アフリカのダンスを見せた晩もあった。
食事のあとに、外に出た。
今夜も、星空だった。
月明かりで波の様子をうかがっていると、ハンスがそばに立った。
「天の川 が、美しいですね。あなたは、星座にお詳しいですか?」
「いや、あんまり。小熊座とオリオン座ぐらいかな、わかるのは」
「ワタクシも、余り詳しくは。女の子にモテたいと思って、覚えようと努力した時期もありましたが、・・・。若い頃、むかし、むかしのことです」
「どこの国でも、みんな、似たようなことするんだね」
「・・・。ジュヌビエブと寝ましたか?」
「いや」
「オーケー、オーケー、寝てもいいのです。ただ、避妊具(プリザーパティフ)を付けましたか?」
「いや、本当に寝なかったんだ」
「それが一番安全な方法ですね」
ハンスが笑った。
「ワタクシは、プリザーバティフを付けて彼女と寝ます」
星が流れるのが、はっきりと見えた。
「彼女と会うのは、六ヶ月ぶりになります。あんな生活をしているのです。その間にHIVに感染したかもしれません。命が心配です。プリザーパティフを付けずには、抱けません」

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